複眼の構想ひよこ

はいはい、おやつを買って来たからだろ
現金な妖精め
しかし、あんこをほっぺに付けてるサトシは可愛い

サトシがあんみつを食べるのに夢中な内に、俺は魔女(もう魔女で良いんだっ)に持ち帰らされたポスターを仕事机の前に貼り付けた
花火大会かぁ……
客船に一泊しないといけないとなると、またカズナリと親友マサキに頼まないとな……
俺はカズナリにサトシを頼む算段を胸の中で考え始めた
ま、難しい事は無い
なんせ、魔法使いカズナリはサトシに夢中だからな
なんなら、一年くらい船で過ごせとでも言いそうだ
しかし、俺の思惑はあっさり覆がえされた
ポスターを見たサトシが、自分も行きたいとだだをこねはじめたのだ

「イキタイ～ピロ～ロ～」

「サトシ、ダメだよ…人混みは危険なんだから」

「ヤーダー　イクーイクー」

「ダメだよ！サトシ！」

「ショウ　ノ　ケチー　キライー」

手足も羽もぱたぱたと動かして、サトシがだだをこねる
もう、このわがまま妖精めっ！

「サトシ！」
つい大声を出してしまった
サトシがビクンと体をすくめた
あっ、しまった………
そして

ビ………ビ………ビィーロー
サトシが泣き出した
瞳から大粒の涙をポロポロ零す

俺の胸が痛んだ
この家と近くの山と海岸だけが小さなサトシの世界
俺だってサトシを花火大会に連れて行ってやりたいのだ
しかし、人間で賑わう船に連れて行く訳にはいかないのだ
俺は人間の良さを知っている
同時に醜さも知っているのだ……

見かねたマサキが仲裁に入って来た

「ショウちゃん、花火は夜でしょ？
　問題無いよ
　だって、夜はサトシは見かけは人間なん　だから、さぁ」

マサキそれは俺もわかっている

「マサキ、問題はその前なんだよ！
　船の出航時間はまだ明るい内なんだ」

そう、客船アルテミスは夕方出航する
まだ、サトシは妖精の姿のままの時間だ
船に乗る時はバスケットにでも入れていけば良い
だが、船に乗ってからサトシが大人しくしている訳ないのだ
万一、人に見られでもしたら‥…
あの、魔法使いがその人に何をするかわからない

………妖精を見た人間をそのままにはしておけない……魔法使いの冷たい瞳を思い出す

「大丈夫だよショウちゃん
　俺も乗るよ
　船室で３人で過ごせば良いじゃん」

ねっ、とマサキが俺を説得に掛かる
妖精サトシはさっきまで泣いていたくせに、涙を引っ込めてうんうんと頷いている

「オトナシクスル～
　ヤクソクスル～ピロ～」

そんな約束はあっさりスルーする気だろうが、この小悪魔めっ！

しかし、俺はマサキの言葉に心を動かされ始めた
なんといっても、サトシに花火を見せてやりたいのだ……結局

「仕方ないなぁ……じゃあ‥…」
と、俺が言いかけた時

「絶対に駄目だ」
低い声が俺の言葉を遮った
　
どうやら、漸くお目覚めになったようだ
声の主は、ヴァンパイア・ジュン
陽の光も怖れない進化したヴァンパイア
俺以上にサトシに甘いジュンの意外な言葉

「なんでだ？」
さっきまで、反対していたくせに俺はヴァンパイアに食ってかかっていた

ヴァンパイアは紫色の瞳を俺に向ける
「あの海は水妖がいる
　しかも、凶悪な水妖だ」

ヴァンパイア・ジュンが諄々と俺達に話す
「あの客船が出航する海は普段は穏やかだが、人が大勢集まるとあやかしが水底から浮かび上がって来るんだ
水妖、水の魔物
ある意味、地上の悪霊より質が悪い
海に引きずり込まれたら、魔法使いもヴァンパイヤアも適わない
サトシなどは、格好の標的になる」

悪霊も水妖も蒼の妖精が欲しいのか‥……
花火大会は無理だな……
サトシにもヴァンパイアの話は理解出来たようだ
サトシはうつむきしょんぼりして涙を零す
さっきまでの大声で泣くサトシよりずっと哀れで胸が詰まる

サトシ‥……ごめん……

サトシの涙が、またがっているひよこの頭に落ちる

ん？
なんだ、ひよこの目が一瞬だけ光ったような……
まさかな、おもちゃの目が光る訳は無いよな

俺はサトシを抱き上げる
サトシ、サトシ
花火なら買って来るよ
お前に見せてあげるよ
だから、泣くなよ……な……
しばらくサトシを抱いてあやしている内にサトシも諦めたのか静かになった
何か小さな声で唱えているが、小さ過ぎて良く聞こえ無い

‥……ﾏﾎｳﾂｶｲ‥……ﾏﾎｳﾂｶｲ‥…ｵﾈｶﾞｲ‥……
それから、五分もしないうちにふぁわんと煙が上がった
え？なんだ？

「しっっつれいしまぁぁ～す」
わぁぁ！
なんだぁ
いきなり、目の前に３人の女性が現れた
黒い尖り帽子に黒いマント姿

………まさか‥…本物の‥……ま、魔女かぁ……

「偉大なる闇払いの魔法使いからの伝言をお伝えに来ましたぁ」

はいぃ？闇払い？

「私、nonon」
「私はhiro-pooh」
「そして、私はmika 」
「３人合わせて～闇払いシスターズでぇぇす」

‥……はぁ……闇払いシスターズの皆さん…って、なんだよ！なんなんだよっ

「あの船には特別な守護呪文をかけたゆえ、安心して乗りなさぁぁい」
「との御言葉でぇぇす」
「ついでに、守護の為に私達闇払いシスターズもぉぉ～」

はい？私達も？

「アルテミスに乗船いたしまぁぁす」

………すみません……
闇払いシスターズ様
さっぱり訳わかりませんが‥……

つーか、偉大なる闇払いって………
誰？

「でぇぇはぁ～ご安心なさってぇぇ」

それだけ言い残し、闇払いシスターズはまた、現れた時と同じくふうわぁんと消え去った　　
俺の疑問に一切答える事無く……
固まっていた俺達の間で最初に言葉を発したのはヴァンパイア・ジュン
さすが、進化しただけ有るようだ

「まぁ…………マスターカズナリが安全だと言うなら……」

言うなら？

「安全だ」

なんで？
何の確証が？

「魔法使いカズナリの父親だから」

あ…………そう…………

もはや、俺に言うべき言葉はひとつ
　
「サトシ、お船に乗って花火を見ようか………」

俺に選択肢は無いんだな………

#やまの日祭りでぃ

板橋区産後骨盤矯正マタニティ整体Dear momさん(@dearmom1135)がシェアした投稿 - 2017 Aug 10 12:09am PDT