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ザルツブルク復活祭音楽祭2017年最終公演、ワーグナーのワルキューレを、ザルツブルク祝祭劇場にて。ザルツブルク復活祭音楽祭1967年公演の再演出。
指揮:クリスティアン・ティーレマン
演出:ヴェラ・ネミロヴァ
舞台美術:ギュンター・シュナイダー=ジームセン(舞台再構築:ジェンス・キリアン)
ジークムント:ペーター・ザイフェルト
フンディング:ゲオルク・ツェッペンフェルト
ヴォータン:ヴィタリ・コワリョフ
ジークリンデ:アニヤ・ハルテロス
ブリュンヒルデ:アニヤ・カンペ
フリッカ:クリスタ・マイヤー
ゲルヒルデ:ヨハンナ・ヴィンケル 他
シュターツカペレ・ドレスデン
1967年に故ヘルベルト・フォン・カラヤンによって創設されたザルツブルク復活祭音楽祭。
この音楽祭、元はと言えば、ヴィーラント・ワーグナーと対立してバイロイト音楽祭から遠ざかり、エゴン・ヒルベルトと対立してウィーン国立歌劇場を去ったカラヤンが、バイロイト音楽祭と別の時期に自ら理想とするワーグナー上演を行うために創設した音楽祭である。
1967年第1回目の公演はワルキューレ。ヘルベルト・フォン・カラヤンの指揮、オーケストラはベルリン・フィル、演出はカラヤンで舞台美術がギュンター・シュナイダー=ジームセン(1926~2015)だった。
今回音楽祭50周年記念にあたり、50年前のワルキューレを再構築した舞台が上演されることになった。とはいえ、50年前の舞台をそのまま再演するわけではもちろんなくて、ジームセンの抽象的な舞台美術をベースにして現代の視点で再演出されたものとなっている。
例えば第2幕では背景に登場人物の名前の文字が描かれていて、プロジェクションマッピングを利用して文字が増えたり壁面の色のイメージが変化したりするし、ワルハラにいる召使い(?)が宇宙人みたいだったりするし、衣装もいかにも現代のオペラ的。
こういう演出、新国立劇場でもありそうである。変な読み替えがなくて、音楽を邪魔しない。
さて、私の関心は言うまでもなく音楽が中心で、今回ザルツブルクまでわざわざ来たのは、昨年のイースター音楽祭来日公演を聴いて感激し、これはワルキューレも聴かなければ、と決意したためである。
今回の上演も予想通り、ティーレマンのワーグナーのすばらしさに驚嘆したのであった。オケを煽りまくり、これでもかというぐらいに力強い音の連続、大げさと言ってもいいくらいのダイナミックかつドラマティックな表現!これだけやったら、オケが多少荒れるのも無理はないだろう。2010年に初めてティーレマンのワルキューレを聴いたときほどのインパクトはないのだが、そうはいってもこれはやはりすごい体験である。
バイロイトと違ってオケピットはふたに覆われていないうえ、ザルツブルク祝祭劇場はもともと歌手の声がはっきり聞こえるように残響も少ないので、ピットの音が非常にクリアに聞こえるが、これはいいことばかりではなくて、ちょっとしたキズもはっきり聞こえてしまうという悪い点もある。
さて歌手であるが、まず私の座席が1階のかなり後ろの方で屋根をかぶっており、祝祭劇場の中では決してよくない座席での鑑賞であることを念頭に置いていただきたい。そもそもチケットが取れただけでもありがたいのだが…
ジークムント役はペーター・ザイフェルト。配役の名前を見たときに驚いた。この人まだ歌っていたんだ…マッチョ体型だが、なんと今63歳。ジークムントを歌うにはやや老け気味か…声質が63歳とは思えないほどリリカルなのは驚きだが、やはり突き抜けるような声量はなくちょっと弱い。
個人的には、今回のキャストのなかではジークリンデ役のアニヤ・ハルテロスとブリュンヒルデ役のアニヤ・カンペの2人のアニヤが非常によかった。この2人、声質が似ているように聞こえたのは気のせいか、私の座席のせいか。ハルテロスを実演で聴くのはなんと初めてだが、あまりワーグナー歌いというイメージではない。その点カンペは明らかにワーグナー歌手で、むしろジークリンデを歌ってきた歌手。そのためか、声の芯は強いがリリカルな印象があるのだ。カンペ、一昨年のバイロイトで、ティーレマンが振る「トリスタンとイゾルデ」のタイトルロールを直前に降板したので、ティーレマンとは共演しないと思っていたのだがどうやらそういうことでもないようだ。
フンディング役のツェッペンフェルトは細い身体ながら押し出しが強く、粗野な感じが役に合っている。ヴォータン役のコワリョフ、威厳ある声質は私の好み。日本ではあまり知られていない名前だが、バレンボイムがスカラ座で上演したワルキューレでヴォータンを歌っていたようだ。最後の「ヴォータンの告別~魔の炎の音楽」あたりではややトーンダウンしたように聞こえたが、歌う場所が舞台のかなり奥の方で聞こえづらかったからか?
フリッカ役のマイヤーはバイロイトの脇役常連。フリッカは今まで歌ったことがあったのかわからないが、十分にいい声だったと思う。が、聴衆の拍手はいまいちだった。まあワルキューレのフリッカの出番は一番忍耐力を要求される第2幕がメインだからかもしれない。
17時に開演し、2回の休憩はいずれも30分程度だったか。終演後の喝采はすごいものだ。写真撮っている人が多かったので私も撮ってしまった。最後はオケメンバーと演出のネミロヴァも舞台に上がってのカーテンコールとなった。
来年の復活祭音楽祭のオペラ上演はなんと「トスカ」。ティーレマンのトスカなど想像も付かないが、果たして…
総合評価:★★★★☆